森羅万象の旅日記         

5 最初の晩餐

眼下に急流やダムを見ながら空いている山中の道を進むと、思ったよりずっと早く次ぎのキャンプ場にたどり着いた。ここは高山の美女高原と言う所である。
実はここはあまり期待していなかったキャンプ場なのである。

ところが、二人ともうれしくなるような場所であった。まずアプローチが良かった。林の中の坂道を登りつめると、大きく視界が開けて広々とした青い芝生が広がり、木々と池に囲まれたキャンプ場はまさに弥盛地であった。

先ほどのキャンプ場が隣のテントとの間隔が五〜六メートルだったのに比べて、ここは、その十倍の五十メートル、いやもっとあるかもしれない。それに設備も清潔で、林の中にはちゃんと風呂まである。ちなみに料金は二人で三千五百円也。

さあっ、とにかく先にテントを張ろう。と言っても施工時間はわずか五分、こりゃー簡単でいいや。しかしこのテントは少し強い風が吹くと吹き飛ばされそうな気もするし、雨が降れば融けてしまいそうな気もする。

何しろ二千九百八十円だもんな。それでも我々が持っているキャンピング道具の中では一番高い品物である。テントがその値段なのだから、それ以上の値段の物は絶対買わないと言うのが、今回のキャンプの準備における我々のポリシーなのであった。

カンテラ千二百八十円、寝袋九百八十円、他は-------------。しかし、どうしても値段の最後に必ず八十円がついてしまうな。一通り準備が終わって、林の中にある風呂に行くと誰も入っていない。窓から差し込む夕日を眺めながらゆっくりと今日の汗を流す。

朝、八王子を出て夕方五時過ぎには飛騨高山で、もうこうして風呂に入っている、なんて順調な旅の始まりなんだろう。テントに戻ってもまだ、だいぶ日が高いので、前の池で釣りをすることにした。

釣り道具は、今回の旅で何か食料調達の一助にでもなればと持ってきた物であった。しかし食料はともかくとして、夕暮れの高原の池で釣り糸を垂れるのはまことに気持ちの良いものである。

日もとっぷり暮れて、最後ではなく、最初の晩餐が始まるのであるが、我々の場合はその準備がとにかく早いということである。その場で煮炊きすることなどほとんどない。レトルト食品を温めるだけである。

他に乾き物と唯一自慢のぬかみそがすべてである。しかし、酒だけはたっぷりある。こう書くと何だか貧しい食事のように思えるかもしれないが、いやどうしてどうして、レトルト食品を温める時の温度などに関しては、私の調理師としての肩書きが如何なく発揮される最高の舞台なのである。

風水ワンポイントアドバイス

古代中国では数字の一、三、五、七、九の奇数を陽とし、吉数としました。また、二、四、六、八の偶数を陰とし、不吉数としています。そのなかでも、五を最大吉数としています。

料理の世界でも陰陽五行説を基とした決まりがたくさんあります。例えば刺身などは奇数で盛り付けます。今度、刺身を食べるときはそっと、そっとですよ、数えてみてはいかがでしょうか。

   

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